「余命半年」をなかったことにした祖父

もう5年になるだろうか。
私の祖父が、脳腫瘍でいきなり倒れた。大晦日の夜のことだった。
年齢も年齢だったし、転移の危険性が高いといわれたため「余命はもって半年」と言われてしまった。
その時の母の落胆はひどく、半年後に母もストレスによる体調の悪化で入院する羽目になったほどだった。

祖父が入院し、母も入院し、当時は父が忙しかったため、祖父と母の病院を行ったり来たりしていたが、ある日病院の担当医から「おそらくおじいさまは寝たきりになる可能性が高いと思います」と言われてしまった。「もしこのまま祖父が寝たきりになったりしたらどうしよう、とてもじゃないけど介護はできないぞ」と現実的なことを考えた。

私も仕事と看病と介護とで切羽詰まっていたのだと思う。あの当時、私は追い詰められていた。介護殺人などの話を聞くと、「身内を殺してしまうなんて」と憤っていたものだが、あの時は少しだけ、ほんの少しだけ気持ちがわかるような気がした。
心に余裕がなくなると、普段考えもしないようなことが頭に浮かぶものだ。

さて、「寝たきりになったらやばいぞ」と考えた私が取ったのは、入院している祖父の見舞いに行ったとき、「寝たきりになったらもう農作業はできないぞ」「だからリハビリをしなきゃ」「リハビリをしたらきっとよくなる」という、洗脳に近い形でリハビリをすすめるというものだった。

リハビリというのはつらく、そして体に普段がかかるしんどい作業だ。まして、高齢者にとっては苦痛以外のなにものでもないだろう。今思えばひどく酷なことを押し付けたなと思うが、なんと祖父はすんなりそれを受け入れて、それ以来リハビリを必死に頑張った。それはリハビリをすすめた張本人である私が、目を見張るほどの努力だった。

「おそらく寝たきりになるでしょう」と言われていた祖父は、自分でベッドから車いすに移動し、自分の腕と麻痺していない左足とで車いすを巧みに動かした。それだけではなく、何かにつかまってさえいれば、数歩だけだが自分の足で歩いてみせた。
さらに驚くことに転移するはずの腫瘍は、転移どころかまったく肥大もしておらず、「余命半年」は今やなかったことになっている。

祖父がよくしてもらっている看護師さんは、家庭の事情もあり、転職を数回しているそうだが、こんな患者さんは見たことがない!とびっくりされていました。(その看護師さんはこちらのサイトを利用して転職されているそうですよ⇒ http://xn--gmq26f1zoi9n56luyav95h.com/)きっと祖父の執念が脳腫瘍に打ち勝ったのだと私は思っている。